SS 帰還後 その6



ぼちぼち、ぼちぼち書きました。


夢なのか、現実なのか。誰かが呼ぶ声が聞こえる。男の人の声・・。父親なのか、幼い日の想い人のライバーなのか。

未沙はたまらない懐かしさの中なのに、これは夢だと覚めた感覚で思った。肉体を持たない魂といった存在ではなく、今抱き締めてくれる人。彼の声が聞きたかった。


指定された場所に、時間通りに到着した。案内役の士官といっしょに控室に向かった。せまい控室には小さなソファーとローテーブルが置かれている。

もう彼は来ていた。

輝は立ちあがって敬礼した。未沙もそれに応じて敬礼で返した。
どこに座ろうかと思ったが、座る場所は、輝の隣しかなかった。少し間を開けて、彼の隣に座った。女性士官が二人分の水とコーヒーを置いて部屋を出た。

輝は、持っていないと言い張った礼服をちゃんと着込んでいた。

「礼服、届いたのね・・」沈黙が嫌で話しかけた。
「部屋に帰ったら置いてあったよ。よく働く小人さんだ・・」
「ほんと、サイズまでぴったりね・・」

少し明るくなった未沙の声に、輝の表情は緩んで、はぁ、と大きなため息をついた。

「今日は、感動的に振る舞えないなら、ただ立っていろって言われた・・」
「そう・・」

輝は両肘を膝に置き掌を組んで、うつむいたままで言った。

「昨日は・・すみませんでした・・」
伏せ目がちに話す輝から、彼の匂いを感じて、未沙は目を伏せた。
輝の次の言葉を、静かに待った。

「あれから、帰ってから、ずっと考えていました・・」
未沙もうつむいて聞く。不思議な事に、今までの不安や恐れが消えて、ただ彼の声を聞いていた。
「・・ミンメイと、また会う事になるって聞いた時、あの時の気持ちが・・よみがえったのは・・正直なところです・・」

・・輝らしいと思った。輝は、嘘がつけない人なのだ。未沙の心には、もう痛みさえ感じない。
そして、何も言わなかった。

「でも・・勝手だって思うだろうけど・・、僕は・・あなたを失いたくない」

未沙はゆっくり輝を見た。輝は掌を広げて、じっと自身の手を見つめて言った。
「染みついてしまったんです・・」

「なにが・・?」

「あなたが・・」

未沙は輝を黙って見つめた。

「ミンメイさん、無事で良かったわね・・」
「早瀬少佐・・」輝はさみしそうな顔をして未沙を見た。

輝は、またうつむいて言った。
「僕達に足りなかったのは、話す事だったんだと思ったんです。・・僕は、あなたに甘えて、自分の気持ちを伝えきれなくて、あなたは、僕に一番聞きたい事を・・話してくれなかった」

そう言うと、コーヒーカップを手に取りそれを口に入れて顔をしかめた。

あれほど抱きあって、愛し合って・・。でも、それでもまだ、自分達には解決しないといけない事があった・・。

「ミンメイさんが、生きていると思った時、あなたがいなくなると思って・・不安で・・たまらなかった・・」
輝も、じっと未沙の言葉を聞く。

「私は・・今になって、軍人である前に女だって気付くような・・駄目な人間よ・・」

「未沙・・」

「どこかにあるはずなんだ・・」
輝は未沙から視線をゆらゆら揺れるコーヒーの液面に移してを言った。

「どこかにあるんだ・・僕達の行きつく所が・・」

「行きつく所・・」
かけがえのない、人だからこそ。

案内役の士官がノックして控室に入ってきた。
輝は手にしたコーヒーカップを置いて、未沙と一緒に立ち上がった。


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2011-03-15 : SS 帰還後 : コメント : 2 :
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Re: No title
魂とかじゃだめなんですよ。肉体が必要なんです人間には。
で、肉体があって心があるから葛藤もするし、でも好きだし・・的に考えて・・と妄想です。
しかし、愛おぼのシーンで、控室で礼服で座る二人の空気にドッキとしちゃました。
2016-07-24 22:11 : michy URL : 編集
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2016-07-22 19:01 : : 編集
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