SS 帰還後 その1

初めて書いた長めのSSです

「ミンメイと一緒に宇宙に飛び出した日が、ずっと昔の事のように思えてね・・」

輝が素直に心の中を語ったのを聞いた未沙の心の中も、何か真っ白になったように思えた。






輝と未沙は、昨日の別れ際に、今日また会う約束をした。「うまいものが食べたくないですか?」と誘う輝に、未沙は自然にうなづいた。そして部屋に戻って、ひとりシャワーを浴びベッドに横になった時、ふいに、約束など交わした事が不自然に思えた。

彼の匂いが染みついているような感覚があった。それは、いつも近くにあった匂い。

未沙は思う。好きなのだろうか、愛しているのだろうか。あの時はお互いしかいなかった。そんな事を考える必要もなかった。

輝も、同じ事を考えているのではないか。

なのにそう思いながらも、まるで鼻腔に染みついているかのような、彼の匂いに浸った。





「なんでもうまいと思うだろうけど、ラーメンと餃子って訳にはいかないよね」
屈託なく笑う輝に、つられて笑顔になる。
「なんでもいいのよ、一条君がラーメンと餃子がいいなら私もいいわよ」
「餃子臭い早瀬大尉って、想像できないなぁ~、もっといいものたべようよ」

当然、今までにライバー以外の男性にエスコートされて食事くらいした事がある。しかし、ライバーのスマートな立ち居振る舞いや紳士な対応と程遠いと、胸の中で馬鹿にしていた。なのに、今は違う。

肝心のレストラン選びになって、輝は未沙に言った。
「あのさ・・俺、テーブルマナーとかわからないんだ。箸とかフォークでガツガツ食べれる場所がいいんだけど・・」
肩をひそめて上目づかいにニッと笑った。ちょっと頬を紅潮させている。
「そうね、わたしも気楽な所がいいわ。あぁ、ファミレスでもいいのよ、行ってみたい!」
「えええっ、なんか悪いなぁ・・」
「いいの、わたしもたくさん食べたいの、行きましょ」
「やった!いっぱい食べようよ!」

人通りのある場所だったのに、未沙は自分と輝しかいない時間にもどった気がした。

いっぱいになったお腹を抱えて、二人は公園にいた。
やわらかな芝生を見つけると、すぐ輝はごろんと横になった。
「あぁ~、幸せだな~・・腹いっぱいだし・・・それに・・」
未沙はその横に腰掛けてなんとなく聞いた。
「それに?」
「・・・」
輝は喋らなかった。しかし、その沈黙はお互いにとって心地よいものだ。

輝は未沙の上着をつんつんと引っ張って言った。
「大尉も、横になったら?気持ちいいですよ」
「えっ・・」少し声が上ずった。
「大丈夫です、なにもしませんよ・・」

すこし考えて輝の隣に横になった。

芝生の香りと共に、彼の匂いを感じた。

未沙は胸が締められるような感覚になった。
輝の事が好きだ。理由も何もない。輝の匂いをずっと感じていたい。

輝はふいに身体を起こし、未沙を見降ろした。自分のもの想いが通じたのだろうか・・そう思うと恥ずかしくて輝の視線を受け止めていられない。そっと顔をそむけた。

その顔を手でそっと触れると、輝はそのまま身体を降ろした。唇が重なる。それは、初めてくちづけを交わす、少年と少女のような、淡くて切ないものだった。

「・・あの、よかったら・・連絡先・・教えてください・・」
「えぇ・・そうね・・」

お互いが、お互いの深い所に入り込んでいると感じているのに、こうやって、知り合ったばかりのようなやり取りが不思議だった。

明日からは、二人は別々に、当局に事情を報告する事になっている。輝はそれを「取り調べ」と、緊張した面持ちで言った。


未沙は部屋に帰ってから、明日のために報告書を作った。なにかに没入していたかった。そうしないと、今ひとりでいる事がつらいと感じてしまうと思った。

翌日、今回の件の報告のためと、当局の諮問機関からの聞き取り調査のために出勤した。輝も同じ場所にいるはずだが、出勤した時に偶然でも会う事は無かった。

「早瀬大尉、さすがですね。あのような事態に巻き込まれて、自力で帰ってくるとは・・」
担当者はヒラキ少佐。未沙は一度顔を合わせた事がある程度の、畑違いの人物だった。おそらく、情報収集を主に行っている人物だろうと思われた。

飲み物と菓子が出され、和やかな雰囲気を作ろうとしているのがわかった。

「ひとりでは、とても無理でしたわ。幸い、一条少尉が優秀な人物だったので、助けられました。」
「まぁ、その話も、追々しないといけないでしょうが・・」
「え?」
「ざっと、報告書を見させてもらいました。二度手間とお感じになるでしょうが、もう一度、お話として伺いたい」

未沙は、今回の事件に至った経緯、巨人達の前で起こったことを話した。記憶の中から巨人の持つ特性や、武器から予想される威力、そして、巨人艦隊の印象などを絵に示したり、未沙自身が見た事から考察したとこを全て話した。

驚いた事に、ヒラキ少佐は巨人達の特性や艦隊について、ある程度の知識があるようだった。

昼食を挟んで、午後になった。昼食の時、輝に会えないかと思ったが、ヒラキ少佐がランチボックスを二つ持ってきたのを見て諦めた。

「少し早いですが、今日はこのへんにしましょうか。お疲れでしょう」
「いえ、疲れていると言うほどではありませんわ」
「最後に、少しいいですか?」
「えぇ、なにか?」

ヒラキ少佐は努めて穏やかな顔を作って言った。

「あなたと一条少尉との個人的なご関係についてお聞きしたい」

未沙も平静を装って言った。

「ご質問の意図がわかりませんわ」

「彼はなかなかいい男ですね。撃墜数もエースクラスだ。パイロットとしてもすばらしい。私も少年の頃、パイロットに憧れていたのでね・・」
「・・・」
「リン・ミンメイ嬢と並んで立っていても、きっと良く似合うと思いませんか?」

未沙は不快な思いを隠すのに精いっぱいだった。

「何をおっしゃりたいのです?」

「今回の事件、いつまでも彼女の失踪を隠しとうせる訳がないという事です。それと、あなた方と同じように生きているかもしれない。もし・・、彼女が生きていて、どんな事を喋るかわからないですが、市民にとって、良い影響であって欲しいと思いませんか?」
「・・良い影響・・」

「若く優秀なバルキリーパイロットと、トップアイドルの恋。二人は宇宙に飛び出した結果・・。個人的には、哀しくも美しい話だと思いますが・・」

作り笑いを浮かべて話すヒラキ少佐に虫唾が走る思いだった。

「お話は終わりましたか、失礼します」

未沙はそのまま部屋を出た。

胸がつぶれそうだった。立っているものやっとの気がして、壁に手をついて歩いた。とにかく、早く自分の部屋に行こうと思った。



部屋に帰った未沙は、異様な喉の渇きを感じてミネラルウォーターを飲み干した。しかし、動きが鈍った消化管が水さえも受け付けてくれない。

吐き気をおぼえてベッドに倒れ込んだ。

あのヒラキの言動。身を引けと言わんばかりだった。しかし、そんな事に動ずるわけではない。未沙を追いこんでいる思いはただ一つだ。

ミンメイが生きているのかもしれない。

ヒラキは巨人たちの情報を既に得ているのではと、話をしている時に感じた。そして何か重要な事を知っていて、隠している。おそらく、巨人から何らかのコンタクトがあった。そのなかで、ミンメイの所在が明らかになっているのかもしれない。

輝は、どうするの・・

ミンメイと輝は、お互いに惹かれあっていた。恋人同士だったと言ってもいい。二人の間に、どんなささやきがあったのか・・。あの時、彼女を想って、輝は荒れていた。

お互いの気持ちをささやきあう前に、身体を重ねた自分達と、想いを通わせ合ったであろうあの二人・・。

もし、あの可憐な少女が輝の前に再び現れたら・・。

未沙はベッドに横になったまま、自分の膝を抱いた。このまま眠ってしまおうと思った時、ふいにベッドサイドに置いてある電話が鳴った。

「・・はい、早瀬です・・」
「一条です。・・あの、今帰ったんですけど、大丈夫ですか?すごい声なんだけど・・」
「・・なんでもないわ・・」
「なんでもない訳ないよ。今から行く・・」
遮って言った。
「いいの!来ないで!」
激しく受話器を置いた。

涙が出た。早く来て、早く来て。あの時みたいに抱きしめて欲しい、抱きあうことでお互いの隙間を埋めあった、あの時のように。






これは・・完成させてからと思ったけど、ま、ええかと思って上げましたエヘ
長いのに、ここまで読んでくださってありがとうございます。

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2011-02-19 : SS 帰還後 : コメント : 3 :
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非公開コメント

Re: No title
やや・・。かなり初めに書いたものなんで、なんか恥ずかしいです。
でも、切ない系を目指していたような気がします。このSSも、最後に力尽きた感じで終わったような・・。
このSSを書いていた時、ライバーが生きていて、未沙と結婚していたけど、輝と地球におちて二人になって愛し合って出来ちゃうって妄想してましたが・・。そういうのも楽しいかも。
2015-04-08 15:07 : michy URL : 編集
No title
切なす…(´Д⊂
いつ読んでも未沙が切な可愛いです…

ラストシーンの笑顔で、ヒラキちゃんは丸メガネに金歯みたいなイメージで読んでました。そういう嫌らしい感じの人が知り合いにいたので…(^_^;)
2015-04-05 13:40 : びえり  URL : 編集
Re: No title
> どぅわぁっちゃぁぁぁぁっぁ!
> 部屋に電話&そっち行く!は
> この時点で出すのは、勇気(*´・ω・`)bよ 劇場だと、ラストの警戒警報に影響出ちゃうし このあとが、ワクドキです! もぉ~ん 読者キラーなんだから(笑)興奮ε=ε=(ノ≧∇≦)ノ 次へ進む
2015-04-04 23:49 : michy URL : 編集
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