SS 月までの距離

久しぶりのSS更新です。

引っ越しで、てんやわんやだったうえに、職場で配置換えになってしまいました・・。
旧職場で1年かけてやろうと思っていた取組を、一週間で骨組みだけでも作ってしまおう!と、大忙し。

あぁ・・しんどすぎる・・。
でも、気分転換になるから、結局ここで遊ぶとは思うのですけどね(^_^;)

途中まで書いてあって、最後ガガーーと一気に書きました。
空白の2年間、アポロ行きまでの二人です。

よろしければ、お付き合いくださいませ(*^_^*)




「はぁ・・・」

輝は新しく作られた飛行場の施設の屋上にいた。
小さくても丈夫な建築物をと言う事で、建物は3階建。その屋上はあまり高いとは言えなかったが、真新しい滑走路を眺めるにはいい場所だ。
大きくついた溜息は、あっという間に風にさらわれてしまうが、彼の物想いはなかなかしぶとかった。

「半年かぁ・・」

輝はついさっき、航空飛行団司令からアポロ基地転属の命令を受けたばかりだった。
その事を一番に伝えたい彼女は、輝の背後にある、あのマクロスの中にある臨時の司令センターにいる。早く彼女にこの事を話したいのに、なぜかそうする事が出来ず一人でこの場所にいたのだ。

今まで、地球再建のために精一杯の努力をしてきた。
あの絶望的な状況の中で再び会えた未沙と組んで一緒に任務をこなす事に、何か意味があるように感じていたし、彼女と休日に任務と関係のない話をして一緒に過ごす事も、次の任務に向けて良い充電になっていた。

彼女から感じる絶対の安心感。
その絶対に傲慢な響きがある事など、輝はまだ気が付く事が出来なかったのだが・・。

輝は背後のマクロスを振り返り、また溜息をついた。
どことなく、モヤモヤする。

そのモヤモヤの正体をはっきりさせる勇気を、まだ輝は持ってはいなかった。

「一条隊長、ここにいらしたんですか・・」
声をかけてきたのはマックスだ。彼の声にハッとして、自分がぼんやりしていた事に気が付いた。
「聞きましたよ、アポロ行き」
輝はマックスに向きなおって柵にもたれかかった。
「・・正直、気が進まない・・」
マックスは隣で同じように柵にもたれながら、からかうでもなく、真面目な調子でそう言った。
「どうして?あ、早瀬少佐と離れちゃうから?」

「そんな・・ただ・・」
「ただ?」

吐き出してしまいたい事があるはずなのに、なんだかはっきりしない。
「ただ、まだ今の再建の任務を離れたくないだけだよ」

そう言って、輝は柵から背中を離し、マックを置いて歩き出した。

「相変わらずだなぁ・・」
マックスはそうつぶやいて、輝の背中を追いかけようと思ったが止めた。今は彼を一人にしてやろうと思いなおして、またつぶやいた。
「あの二人には、時間が要りそうだもんな・・」



その日の夕方に近い午後、未沙はいつもと同じように臨時の司令センターにいた。彼女がずっと続けている航空管制の任務を行いながら、再建のための作戦の遂行を見守る事が、今の彼女の任務になっている。優秀な未沙だからこそ出来る事だ。

13:00に、現状の調査と生存者捜索とのために飛び立った輝は、任務を終えて帰還中だった。未沙は他のパイロットと同じように、淡々と輝に指示を出し始めた。
「コントロールよりスカルリーダーへ。現在の基地上空は南東の風14ノット、気温13度。航行中の機体はないのでそちらのタイミングで進入してください」

「了解・・あの、少佐、今日は何時ごろ終わる?」
輝が小声で言った。
「・・え?」
未沙は一瞬、近くにいるヴァネッサをチラリと見たが、メガネの彼女は気が付いていないようだ。
未沙は輝が写るスクリーンに左手の指5本を広げ、右手の指を2本立てた。
それを見た輝は小さく頷いて、一方的に映像をoffにした。

一体、輝は何をするつもりでそんな事を聞いたのだろう。

・・何よ、いつも自分一人で納得して・・。だからなんなのか、どうしてちゃんと言ってくれないのかしら・・。
そう思いながらも、まるで約束をしたような気分になって、未沙は嬉しくなった。


その後・・・。輝に伝えた任務が終わる時間を、もう30分も過ぎてしまった。未沙は慌てて街への出口に急いだ。輝はどこで待っているとか、食事でもしようとかを言った訳ではなかったが、ひょっとして会えるかもしれないと言う想いが、彼女を出口へと急がせた。

今や動かないマクロスを飛び出したが、辺りに見えるのは街に通じる暗い道と、ぽつんと灯る街灯だけだった。

・・何やってるのかな・・、私・・。

あたりをぼんやりと眺めてからゆっくりと歩き出すと、ヒールの靴音がコツコツと鳴る。その音に、じんわりと涙が浮かんだ。
「ごめん!少佐!」
突然背後から声をかけられた。輝だった。
「一条君・・!何よびっくりするじゃない!」
「なんか飲むかなと思って・・、入れ違いにならなくて良かった・・」
輝は、握っていたコーヒーの缶を未沙に差し出して、自分もそれに口をつけてから言った。

「なんか食べない?俺、丼とか食べたいんだけど」
「そうね・・、ちょっと和食な感じでいいわね」
輝と一緒なら、何を食べてもいいのだけれど・・。

未沙の笑顔を見て、輝も「うん」と小さく頷いた。
小さく腕と腕が触れ合う。二人の間の、その微妙な距離。
その微妙さに耐えられなくなった未沙が、輝に話しかけた。

「その丼屋さんって、あの亡命したゼントラーディー人がスパイとして潜入してる時に、よく行っていたらしいわよ」
「へぇ、知らなかった・・」
「なにが好きだったのか、聞いてみたいわね」
「ははっそうだね、きっと天丼かなんかだと思うよ」
「それは輝の好みでしょ?」
「そうそう、かぼちゃと玉ねぎの天ぷらがのっかってればいいんだ。安上がりだろ?」

それを聞いて、未沙はクスクスと笑った時、輝はふいに未沙の手首を握って、彼女の手を引いた。
ハッとして輝を見たが、彼は何食わぬ顔であっさりと言った。
「この角を曲がるんだ」
未沙はあやふやに笑って、まだ高鳴っている胸をそっと手で押した。


その天丼屋さんの店内のBGMはテレビの音で、人が少ないのに店の中は騒がしく感じた。
お目当ての天丼が出来上がった時、輝は未沙にずっと話したかった事を、やっと口に出した。

「あのさ、聞いてるかな?俺、アポロに転属になったんだ」
「知らなかったわ・・。今初めて聞いた・・」
「うん、なんか半年間の任務らしいよ」
丼を片手に持って口の中にかきいれながら、未沙をチラリと見た。
彼女はどことなく寂しそうに見えて、輝の胸の底にある何かがチクンと脈打った。

「帰って来てね・・。ちゃんと・・」
「うん・・あの・・あのさ・・」

「何・・?」

二人は不器用に見つめあった。何かが繋がりかけたその時、テレビからあらぬ音声が聞こえた。

ーそれではミンメイさん、各地を巡ってファンの方々に伝えたい事はどんな事ですか?―
―心のまま、歌にたくさんのメッセージをこめて歌います。多くの方々に聞いてもらえば・・-

輝は大きく体を捻って、後ろにあるテレビを見た。例の彼女のインタビューが終わるまで、彼はその姿勢のまま動かなかった。
それは、ほんの短いインタビューだったのだけど、彼の背中を見つめる未沙には、とんでもなく長い時間に感じた。

姿勢を戻して、再び天丼に箸をつけた輝の手元を、未沙はじっと見た。

「食べないの?」
輝は顔を上げて未沙を見た。
未沙は思ってしまった。彼は、彼女の事を・・まだ・・。
「・・お腹いっぱいだから」
「じゃ、もらうよ」
両手を出して未沙の丼を手元に寄せた。
未沙のお腹も、胸をも、いっぱいにしている物は何なのかを、思いやりもせずに。


店を出ると、月が昇って輝いていた。
二人はその明るい月をじっと見つめた。

「あそこまでいくんだな・・」
「そうね・・遠い・・」
月を見上げて潤む未沙の横顔を見た。
彼女は月を見つめたままつぶやいた。
「遠いなぁ・・」
「月までは、38万キロだからね」

38万キロ。あの背中を見せた輝との距離と、月までの距離はどれほど違うのだろうか。

「半年たったら、帰ってくるよ・・」

そう言って、歩きながら黙る未沙の手を、輝がそっと握った。
未沙のやわらかい手は、未知の領域に行く不安を軽くしてくれる気がした。

未沙も、輝の手をそっと握り返した。
あの時繋がりかけた何かが、いつか再びつながる事を信じて。

お互いの宿舎までの分かれ道までは、あと5分ほど歩く。
分かれ道まで、二人はやはり不器用に手を繋いでいるのだろう。

月はまだ、昇り始めたばかりだった。



おわり

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2012-04-02 : 空白の2年間 : コメント : 4 :
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非公開コメント

Re: No title
わっ!何度も読んでいただいてるんですか!ありがとうございます!
この空白の2年間のお話って、自分でも気に入ってるんですよ。
でも、やっぱりはっきりしない輝なんですが、たしかこの頃って、ミンメイとカイフンが上手くいってる時期ですよね。
この時に、未沙を抱けない輝は、アッチの欲が弱いのか、ただヘタレなのか、ミンメイがやっぱり本命なのか、さっぱりわからない感じで・・。でも、この態度は女性からしたら、もう彼氏に近い感じに思うでしょうね。
ヒドイやっちゃなーーーーーー!と思ったりしますが・・・・

やっぱり、月はまだ登り始めたばかりだった

な、状態なんでしょう(^_^.)
2016-08-27 22:51 : michy URL : 編集
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2016-08-24 23:18 : : 編集
Re: No title
びえりさん
そそ、そうなんです。テレビ版的な二人って、すんなりいかないところが、エエんですわ
だって、すんなりいってないですもん。公式でも・・。
2015-09-29 21:58 : michy URL : 編集
No title
この時代のお話ってやっぱいいですよね…
(ノ´∀`*)

何でもうまくいっちゃうとツマラな…あ、いや、二人には今後とも頑張って欲しいものですウオッホン
2015-09-28 22:40 : びえり  URL : 編集
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