SS 下り坂 のぼり路 2

明日はクリスマス・・。

しかし・・、修羅場のテレビ版クリスマスを、まだしっかり観てないワタシに、クリスマスを語る資格は・・無い。
うーん、でも絵くらい描けたらいいなぁ・・。

では、続きです。

テレビ版20話あたりのSS。よろしければお付き合いくださいませ(*^_^*)








「・・うそだ・・先輩が死ぬなんて・・」
色を失った震えた瞳で、輝は未沙を見た。未沙はそんな輝を見ていられなくて、顔を伏せた。

「少佐は上の階の部屋にいるわ・・。クローディアも一緒よ・・」

輝は裸足で駆け出した。
ウソだ!ウソだ!先輩は・・・
そう、ロイフォッカーは父の一番弟子で、家族同然で、いつも明るくて力強く、そして空の上でもあんなにも安心してついていける編隊長はいなかった。
当然だ。彼は統合戦争のエースパイロット、最強のファイターパイロットなのだから。輝にとって、最高に誇らしい兄貴なのだ。

そんなはず無いんだ!

勢いよく開けたドアの向こうに、小さく眠る人影あった。傍らに静かに座るクローディアがゆっくり振り返った。
「・・ぼうや、来てくれたのね・・」

その人影はあまりに小さく見えて、輝は一瞬、やっぱり間違いだったのでは、と思った。
しかし、覗き込んで見たその面影は・・。

「・・先輩!なんで?先輩!!」
掴んで揺さぶった肩はまだ暖く、命の鼓動が途切れたなど、とても信じられない。
輝はロイ・フォッカーを覆うシーツを勢いよく取り去って、彼の厚い胸に両手を重ねて体重をかけて何度も押した。
「先輩先輩!しっかりしてくださいよ!目を開けてくださいよ!」
輝は振り返って、後を追いかけて来た未沙に叫んだ。
「早瀬大尉!早く医者を呼んでくれよ!きっとあいつら真面目にやってないだけなんだ!」

跳ね返ってくるばかりの胸を押しながら、輝の目からぼたぼたと涙が落ちた。
「なんでだよ!」
そう叫んだ時、輝は後ろから誰かに抱きしめられた。激しく痛む胸を、背中から回された腕の小さくて柔らかい手のひらが慰めるように押した。

「一条君・・。もう、わかったわ・・。わかったから・・」
輝は手を止めて、後ろから抱きしめる未沙を見た。
涙で震えた腕は、悲しいくらい弱い力なくせに、輝をその悲しみごと、しっかりと包み込んだ。
「早瀬大尉・・」
未沙も、輝の背中で泣いていた。

「う・・うぐ・・ひ・・」
そのまま枕元にうなだれて嗚咽した。
激しく震える肩にクローディアが触れて、そっと声をかけた。
「ありがとう、ぼうや。私の代わりに叫んでくれて・・」
輝は声を上げて泣いた。


ロイ・フォッカーが病院を出る時、輝は退院する事にした。
事なかれ主義の医者が、検査の結果が出るまで退院を許可できないと言った時、医者の胸ぐらに掴みかかろうとする輝を制して、未沙がちゃんと話してくれた。
彼にはちゃんと休息を与え、任務に就くことはない事。もし、早期に退院した事で、なにかトラブルがあっても、十分にリスクを説明済みであれば、それは本人の自由意思で選んだ事であり、病院に責任を問う事はない事。
未沙の毅然とした態度に、医者は輝の退院を許可するしかなく、輝も傍らで立っている事しか出来なかった。


「あの・・色々とすみません・・。」
宿舎に帰るための私服さえなかった輝に、未沙が服を買ってきてくれた。荷物を入れたカバンには、未沙がくれた花も一緒に入れた。

「いいのよ・・。ご家族に不幸かあったのと同じなのよ。辛いときは、周りに任せたらいいの」
輝は歩きながら、そう言ってくれる未沙を見た。未沙も視線に気が付いて、ふっと笑った。

「そういえば、看護婦さん達が噂してたわ。恋人さん、来てくれたんだって?」

輝は未沙から視線をずらした。
来てくれた事には間違いないのだけど・・。
「はい・・。来てくれました」
未沙はパッと笑って輝に微笑んだ。
「すごいわね、今彼女とてもハードスケジュールなんでしょ」
「・・みたいですけどね」
輝のパッとしない反応に、未沙はこれ以上ミンメイの話はしなかった。

二人はしばらく、無言で歩いた。

「早瀬大尉・・」
沈黙を破ったのは、輝のほうだった。
「なんだか今、とんでもない下り坂にいるみたいで・・。しかも、底が見えなくて・・」
未沙は沈んで見える輝をそっと見た。未沙からは、輝の瞳の色はいつもの生意気な光がなく、彼が色んな事に衝撃を受けしまった事を表わしているように見えた。

「・・そう思ってしまう時って、あるわよね。でも、底に行ってしまえば、後は登るだけ・・」
「登るのも、大変そうだ・・」

そう言う輝の腕を軽くつかんで、未沙は輝の前で立ち止まった。
「あなたは、自分で思っているより実行力があるわ。大丈夫」
輝を軽く見上げた未沙の瞳は、今まで見た事がないくらい優しい。
彼女は、頼れる兄貴の死に叫ぶしかなかった苦しい胸を、抱いてくれた。あの感触を、もう一度感じてみたくなった。

「あの・・少しだけ、抱いてもいいですか・・?」
未沙は一瞬戸惑った顔をしたが、輝のあまりにも傷ついた瞳を見て、小さく頷いた。

二人は周りを気にせずふわりと抱き合った。

それは、本当に一瞬だったけど、お互いの癒すような暖かさは、十分すぎる程確かなものだった。



おわり

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2011-12-23 : 第一部 : コメント : 0 :
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