SS きぼうのひかり 4

週末更新が目標のSSです。
やっぱりここかの劇場版放浪記。

今回、手直しする時間がなかったので、ジリジリと細かいところを修正するかも・・

とにかく、週末更新の目標は達成(^_^;)です・・。

よろしければ、お付き合いくださいませ




変わり果てた地球を彷徨って、もう10日になる。絶望しきった心に、疲れ切った躰の早瀬未沙は、とうとう起き上がれなくなってしまった。顔色が悪く、息が荒い。熱があることは輝から見ても解る。

バルキリーのサバイバルキットにあった、解熱鎮痛剤を飲ませようとしても、未沙は頑として、それを飲もうとはしなかった。
「これは、パイロットのためのものだから・・」
「そんなの、関係ないじゃないか・・、調子が悪い人が飲めばいいんだ・・」
「・・いらないの・・」

輝に背を向けてしまう未沙を見て、せめて水だけでもと、浜に流れ着いたペットボトルをナイフで切って作ったコップに水を入れた。
そっと未沙の枕元に置くと、そのままテントを出た。

輝は正午に近い時間の空を見上げた。どうも雲行きが怪しい・・。ひょっとしたら嵐になるかもしれない。かつては、携帯型タブレットで、天気図なんか簡単に見る事が出来た。今は、自分自身で大自然にぶつかっていくしかないし、食べる物も自分で探すしかない。サバイバルキットの携帯食など、ほんの数日分だ。

波打ち際に魚がうろうろと彷徨っているのが見えた。この爆撃で潮が変わったせいだろうか。深海魚らしきグロテスクな魚が泳いでいる。深海から上がって、水圧が変わったためか、エラから内臓が飛び出し、ウロコも奇妙に浮き上がっていた。かなり弱っている。

これならすぐに捕まえられそうだ。
輝は必死になって漁を始めた。


私はダメ・・、それにひきかえ、あなたはタフね。きっと、あなたの育った環境がそうさせているのよ。

どうしようもなく寂しい言葉に、今度は輝の心が萎えかけてしまった。しかし、その言葉が輝に与えた傷に気が付いた未沙も、彼同様に傷を負ったようだった。泣きながら深海魚をかじる未沙を背中に感じて、輝の気持ちは複雑だった。未沙のさっきの言葉に、心を閉ざしてしまいたいような想いと、ほんの少しホッとした気持ち。つらい言葉の後、未沙ははっとして、輝に謝った。そして、彼女が寝込んでから、初めて食べ物を口にしてくれた。未沙は、生きようとしているのだ。


翌朝。雨はすっかり上がって、青空に雨上がり後特有の湿った風が、海の方向から吹いていた。

未沙が音をたてないようにテントを出たようだった。ゆっくりと砂浜を鳴らして歩く気配を感じて、輝は目を覚ました。

トイレかな・・。

そう思って再び目を閉じたが、未沙はなかなか帰ってこなかった。
心配になってテントから出て、南風に吹かれながら辺りを見回すと、波打ち際に彼女が座っていた。

輝の気配を感じた未沙が、ゆっくりと振り返って微笑んだ。
「おはよう・・」
「おはよう。体、もう大丈夫なの?」
「えぇ・・」

輝が隣に座ると、未沙は海の方を向いて、風に流れる髪を押さえて言った。
「こうやって海を見てるとね、こう思うの。振り返ったら、湘南とか、鎌倉とかが、ちゃんとあって、たくさんの人が生活してるんじゃないかって・・。」
輝も同じように海を見た。
「よく行ってたの?湘南とか、鎌倉とか・・」
「よくって程じゃないけど・・。好きな街だったから」
「そっか・・」

海からの暖かい風が、二人の間をすり抜ける。
もう変えようもない出来事は、その重さゆえに、二人の心を真っ白にさせた。
未沙は膝を抱かえたまま輝に顔を向けた。今まで見た事がない柔らかい表情だった。
「ねぇ、江の島に行かない?たくさんネコがいるのよ。それに美味しいお店もあるし、神社でおみくじも引きたいわ。一条君と行ったら、面白い事がいっぱいありそう・・」
「・・うん」
輝は少し困った表情で未沙を見た。

「冗談よ・・」
「びっくりした・・。早瀬さん、壊れたかもと思った・・」
「ふふっ・・相変わらず、ひどいのね・・」

波の音が、命のリズムを刻むように流れる。
悲しいようでいて、なぜか不思議と心地よい沈黙だった。

ふと、さっきの未沙の言った光景が浮かんだ。ネコと遊んで笑い、美味しいものを食べて目を細め、おみくじを引いて一喜一憂する、未沙。

笑う輝を見て、未沙が苦笑しながら言った。
「やだ、私、変な事言った?」
「いや、ただ、早瀬大尉もネコと遊んだり、美味しいものが食べたかったり、おみくじ引いてみたりするんだと思って・・」
「やぁね・・。でも、そんな風に思われちゃっても、仕方ないわね・・」

そう言って海を見ながら微笑む未沙の顔を、朝の光が照らし、風がゆっくりと彼女の前髪を揺らす。
輝はそんな未沙をじっと見た。失ってしまいたくない、大事な光景に思えた。

「ねぇ、大尉。あの、俺たち・・、もうお互いに嫌味とかイラついた気分を八つ当たりしたりとか、もう止めませんか・・」
「そうね・・。でも、ちょっと自信ない・・。あぁ、一条君が悪いって言うんじゃないの。これは私の問題で・・どこまで自分をコントロールできるか・・」
俯く未沙は、やっぱりそれまでの彼女とは違うように見える。

「難しく考えなくていいんじゃないですか?ただ、イラつく前に、思った事を正直に伝えれば・・」
「つまらない誤解をして、どうしようも無くなる前に、ちゃんと話をしようって事ね・・」
輝は未沙を見て頷き、それを見た未沙も小さく笑った。

「・・東京でね・・私が座り込んじゃった場所・・。あそこ、あの辺りに、私の家があったの・・」
淡々と語る未沙に、輝の方がつらくなる。

でも、悲しいのは彼女だけではない。
輝の胸に、昨日の夜に未沙が言った寂し過ぎる言葉がよみがえった。浮かんできた悲しみを、彼女に話してしまいたい・・。
「僕には、親父が死んでから、家族はいないけど・・、世話になった人や、一緒にパイロットを目指した同期たちがいて・・。ミンメイも・・先輩も・・」
言葉が涙で詰まってしまう。

未沙は、だまって、じっと輝の言葉を聞いていた。
輝の涙でぬれた目元を、南風がそっと撫でる。ふと、未沙を見ると、彼女の目も、涙で潤んでいた。
一瞬、見つめあう。

「早瀬大尉・・」
その潤んだ瞳を見て言う。
「なに?」
「今日は、僕と一緒にいてください・・」

どういう意味かと聞いてみたい。そんな表情をしている未沙を見る事もせず、輝は立ち上がった。
今までのように、彼女からの視線を、まっすぐに受け止める事が出来なかった。ついさっき、「一緒にいて・・」と言ったのに・・。
輝は未沙を置いて、そのまま歩き出した。
未沙は、少し悲しい顔をしたが、ゆっくりと立ち上がって、彼の砂浜に残した足跡を追うように歩き出した。


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2011-10-28 : SS きぼうのひかり : コメント : 0 :
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